おまえを変えたのは僕だと、心のどこかでそう自惚れていた。
【携帯電話】
長い公判を終え、ようやく一息つけるようになった僕は、御剣を居酒屋へと誘った。
「ふっ・・・いつにも増して危うい弁護だったな、成歩堂」
隣に座った御剣は白い頬を酒精に紅く染めて、楽しそうに笑っている。
お馴染みのギリギリ逆転劇で弁護側である僕が勝訴したことを揶揄いながら、いたくご機嫌な様子だった。
再会したばかりの頃は見えない鎧を幾重にも着込み、冷淡な態度と凍てついた眼差しで周りのものを全て拒絶していたのに。
今では柔らかく微笑んだり、心細げに涙を流したり、理不尽さに怒ったりと様々な顔を見せてくれる。
僕にだけ心を許してくれている。
そんなふうに思えて、ひどく嬉しかった。
キミにとって、僕だけが特別な存在なんだと優越感さえ覚えていたんだ。
そして僕は、そんな御剣をいつしか可愛いと思うようになっていた。
強がってばかりいるけれど、本当は人一倍繊細で傷付きやすいキミを守ってやりたいと。
「どうした、成歩堂? 飲み過ぎて具合が悪くなったか?」
くいくいっと僕の袖を引いた御剣が、アルコールで潤んだ双眸に心配を滲ませて顔を覗き込んでくる。
間接照明を受けて濃い影を落とす長い睫毛が数えられそうな距離に、僕はドギマギした。
「平気だよ。まだそんなに飲んでないし――ちょっと考えごとしてただけだから」
「ム・・・考えごとだと! 私といるのはそんなにつまらないかね?」
こうやって拗ねるのも無作為だっていうんだからタチが悪い。
「そんなわけないだろ。ほらほら眉間にヒビ入れてないで」
「ムう・・・どうもキサマの言うことは信用できん」
「ちょっ・・・何それ? まるで僕が嘘つきみたいじゃないか」
「そうは言ってない。だが・・・キミは私に気を遣ってるだろう?」
「どうして、そう思うの?」
「矢張が相手のときは、もっと気安いカンジでしゃべっているではないか」
そんなこと、鬼の首でも取ったかのように自慢げに言われても困っちゃうよ。
「ん~? そうかなぁ?」
「そうなのだ! 真宵くんのときはシタテに出ているし、糸鋸刑事のときはちょっと偉そうだ」
これって御剣なりのヤキモチなのかな?
その三人に対してなら、御剣の接し方も僕と大差ないと思うんだけど。
「御剣、僕のことよく見てるね」
そう言って滑らかな頬に手を添えると、御剣が明らかに狼狽した。
「それで? 御剣は僕にシタテに出て欲しいの? それとも偉そうに振る舞って欲しいの?」
「なッ・・・」
「僕としては・・・・・・」
不意に鳴り響いた携帯の着信音が、僕の一世一代の告白をぶち壊す。
ミニー・リパートンの『LOVIN’ YOU』――もちろん僕の携帯じゃない。
ハッとした御剣はただでさえ紅い頬を更に上気させて、照れ臭そうに、でもどこか嬉しそうに携帯を手にすると店の外に出て行った。
あんな顔を見てしまえばイヤでもわかる。
僕の恋は告白する前に終わってしまったってこと。
流れたのはメロディーだけだったけど、あの曲の歌詞は僕だって知っている。
そして、機械オンチの御剣が設定したはずもないから、導き出される答えは至極簡単。
御剣の“特別”な誰かが、自分からの着信に気付かせるために“特別”に設定したに違いない。
着信から20分。
分厚いガラスの扉の向こうで、御剣はまだ話してる。
冷たい風がスーツの裾をハタハタとはためかせ、携帯を握る手も冷えているだろうに、当の本人は会話に夢中で寒さなど気にならないらしい。
綺麗な顔に浮かんだ蕩けるような笑顔に、僕の胸はチクリと痛んだ。
あんな表情、見たことがない。
なんだか僕はシャクに触って、ガラス扉を開けると大きめの声で言ってやった。
「御剣、そんな格好のままじゃ風邪ひくよ!」
もちろん電話の相手に聞こえるように。
【携帯電話】
長い公判を終え、ようやく一息つけるようになった僕は、御剣を居酒屋へと誘った。
「ふっ・・・いつにも増して危うい弁護だったな、成歩堂」
隣に座った御剣は白い頬を酒精に紅く染めて、楽しそうに笑っている。
お馴染みのギリギリ逆転劇で弁護側である僕が勝訴したことを揶揄いながら、いたくご機嫌な様子だった。
再会したばかりの頃は見えない鎧を幾重にも着込み、冷淡な態度と凍てついた眼差しで周りのものを全て拒絶していたのに。
今では柔らかく微笑んだり、心細げに涙を流したり、理不尽さに怒ったりと様々な顔を見せてくれる。
僕にだけ心を許してくれている。
そんなふうに思えて、ひどく嬉しかった。
キミにとって、僕だけが特別な存在なんだと優越感さえ覚えていたんだ。
そして僕は、そんな御剣をいつしか可愛いと思うようになっていた。
強がってばかりいるけれど、本当は人一倍繊細で傷付きやすいキミを守ってやりたいと。
「どうした、成歩堂? 飲み過ぎて具合が悪くなったか?」
くいくいっと僕の袖を引いた御剣が、アルコールで潤んだ双眸に心配を滲ませて顔を覗き込んでくる。
間接照明を受けて濃い影を落とす長い睫毛が数えられそうな距離に、僕はドギマギした。
「平気だよ。まだそんなに飲んでないし――ちょっと考えごとしてただけだから」
「ム・・・考えごとだと! 私といるのはそんなにつまらないかね?」
こうやって拗ねるのも無作為だっていうんだからタチが悪い。
「そんなわけないだろ。ほらほら眉間にヒビ入れてないで」
「ムう・・・どうもキサマの言うことは信用できん」
「ちょっ・・・何それ? まるで僕が嘘つきみたいじゃないか」
「そうは言ってない。だが・・・キミは私に気を遣ってるだろう?」
「どうして、そう思うの?」
「矢張が相手のときは、もっと気安いカンジでしゃべっているではないか」
そんなこと、鬼の首でも取ったかのように自慢げに言われても困っちゃうよ。
「ん~? そうかなぁ?」
「そうなのだ! 真宵くんのときはシタテに出ているし、糸鋸刑事のときはちょっと偉そうだ」
これって御剣なりのヤキモチなのかな?
その三人に対してなら、御剣の接し方も僕と大差ないと思うんだけど。
「御剣、僕のことよく見てるね」
そう言って滑らかな頬に手を添えると、御剣が明らかに狼狽した。
「それで? 御剣は僕にシタテに出て欲しいの? それとも偉そうに振る舞って欲しいの?」
「なッ・・・」
「僕としては・・・・・・」
不意に鳴り響いた携帯の着信音が、僕の一世一代の告白をぶち壊す。
ミニー・リパートンの『LOVIN’ YOU』――もちろん僕の携帯じゃない。
ハッとした御剣はただでさえ紅い頬を更に上気させて、照れ臭そうに、でもどこか嬉しそうに携帯を手にすると店の外に出て行った。
あんな顔を見てしまえばイヤでもわかる。
僕の恋は告白する前に終わってしまったってこと。
流れたのはメロディーだけだったけど、あの曲の歌詞は僕だって知っている。
そして、機械オンチの御剣が設定したはずもないから、導き出される答えは至極簡単。
御剣の“特別”な誰かが、自分からの着信に気付かせるために“特別”に設定したに違いない。
着信から20分。
分厚いガラスの扉の向こうで、御剣はまだ話してる。
冷たい風がスーツの裾をハタハタとはためかせ、携帯を握る手も冷えているだろうに、当の本人は会話に夢中で寒さなど気にならないらしい。
綺麗な顔に浮かんだ蕩けるような笑顔に、僕の胸はチクリと痛んだ。
あんな表情、見たことがない。
なんだか僕はシャクに触って、ガラス扉を開けると大きめの声で言ってやった。
「御剣、そんな格好のままじゃ風邪ひくよ!」
もちろん電話の相手に聞こえるように。
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